ゴイステをあの娘におくる真夜中のMSNメッセンジャーで

高校生の頃、会ったことのない女の子と夜な夜なお喋りをしていた。

当時はテキストサイト全盛期で、個人サイトの掲示板でのやりとり、みたいなことが結構あった。
テキストサイトにはだいたいプロフィールがあるのだけど、そこではしばしば「前略プロフィール」が使われていた。

前略プロフィール」というのは、質問に答えていくとプロフィールが作れるSNSのはしりみたいなサービスで、そんな形式だからなのか妙にテンションの高い独り言みたいな自己紹介ができあがるので、今ではネットの黒歴史として名高い。

サイトが面白かったりプロフィールをみて趣味が合いそうな人にはメールを送ったりしていた。牧歌的な時代だった。
まあだいたい、2、3日メールをするとどちらともなく連絡しなくなる。
別にそこでリアルな友達を作ろうとか恋人を作ろうというモチベーションもなかったし、学校の友達には話したことはなかったので、暗い暇つぶし、程度に思っていた気がする。

ある日、妙に大人びた文章を書く女の子を見つけた。
色々なことに怒っていて、でも感情的になりすぎず、その源泉みたいなものを冷静に分析していた。
好きなものについて書くときだけ年相応の女の子らしい文章だった。
病んだ文章だとは思わなかったけど、時折、リストカットのことが書いてあった。
周りにリストカットをやっているという人はいないし、そういう「病み」みたいなものは遠ざけてきたのだけれど、当時中学三年生だったその娘が書いた

リスカは生きるためにやるんだよ 

から始まる血のあたたかさに関する文章を、それが常套句だとわかった今でも時々思い出して、どんな気持ちで書いたのだろうと想像する。

前略プロフィール」に載ってる自撮りをみると、華奢で、色白で、黒髪のショートカットで、大人しそうなのに少し気の強そうな目をしていて、今までに出会ったことのないタイプの女の子だな、と思った。
もちろん、10年以上前のガラケーで撮られたとても解像度の低い写真なので、半分以上は想像力で補われた容姿だ。
都会に住んでいて、ひとつ年下。
好きな音楽はラルク・アン・シエル。
パンクキッズを自認していたので、趣味は合わなかった。
それでもなんとく気になって読み続け、ある日文章の感想を書いてメールを送った。
女の子に送ったのは初めてだったと思う。
返事があって、しばらくやりとりしているうちに「メッセしようよ」と誘われた。

メッセというのはMSNメッセンジャーというチャットアプリの事で、今でいうとskypeGoogleハングアウトとかLINEに近いと思う。ちなみに音声通話の機能は、当時はなかった。

それから、その娘と夜な夜なMSNメッセンジャーを使ってやりとりするようになる。
音楽を聴いたりギターを弾いたりネットを見て回ったりするかたわらにチャット画面があって、成績がどうだったとか彼氏が触ってきて嫌だとか母親ともう何日も会話をしていないとかツラツラと話しかけてくる。
一緒に部屋にいるみたいな感じがした。
僕もバンドのことや、好きな子ができたり付き合ったり別れたりするのを、その娘に話した。
週に1、2回、だいたい夜半過ぎからどちらともなくメッセージを送り合う関係が、数年続いた。

高校二年生のクリスマスの間際にゴイステの「BABY BABY」が使われているFlashをみつけて、URLを送った。
一番好きなバンドなんだけどもう解散してしまっていること。
でもボーカルの峯田和伸はブログを更新しているから、ずっと追いかけていること。
誰かの人生を変えてしまうような特別な存在であることを伝えたくて、生きずらそうにしているその娘に響けばいいなとキーボードを叩いたんだけど、いい曲だね、くらいの反応だった。

それから僕は大学生になってパソコンをあまり開かなくなって、その娘には時々メールは送っていたんだけど、ある日送ったメールにエラーメールが帰ってきて、もう全く連絡がとれなくなってしまったことを知る。

峯田和伸銀杏BOYZとして活動を始め、ゴイステの歌もいくつか新しいアレンジで歌い続けていたのだけれど、だんだん露出が減っていって、3年前にアルバムを出した後でメンバーがミネタを残して全員脱退してしまった。
ミネタはひとりで活動を続けるらしい。

去年の末に『きれいなひとりぼっちたち』という銀杏BOYZのトリュビュートアルバムが出てから、ずっと聴いている。

正月なので実家に帰るために高校生の頃毎日使っていた電車に乗って、ミネタの曲を聴く。

あの娘のことが好きだったなと思う。

 

 

Kireina Hitoribocchitachi

Kireina Hitoribocchitachi

  • Various Artists
  • ロック
  • ¥2200

 


銀杏BOYZ&『きれいなひとりぼっちたち』コラボレーション・トレイラー映像